田遊びの創始は鎌倉時代中期と伝えられています。神社所蔵の延宝8年（1689）の記録には、旧暦正月3日の夜、神前の白洲で執り行われたことが記されています。
田遊びとは、年の始めにその年の豊作を祈願して田作りから刈り入れまでの稲作課程を模擬的に演じてみせる神事芸能をいい、田の神を活気付けるところに原義があったといわれています。
12段の演目により構成され、旧社家の36軒の方により奉仕されます。芸能は朴訥としていて芸能的色彩は薄く、詩章である唱え言を中心とした見立て芸がいかにも古能を偲ばせてくれます。
奉納演目
演者全員が舞台中央の太鼓を円く囲み、太鼓の上の小桶の縁を柳の小枝でたたきます。これは田植えに先立つ（田打ち）をあらわすもので、「あら楽しきょうの楽しさよ古えもかくや楽しさよ 田を作れ…」と田作りのことほぎを一人が唱えます。
演者二人が扇子を鍬に見立て、前後に動きながら「是は小國大明神の畦塗りまする苗代しまする」と唱えながら畦作りの所作をします。次いで水口で来るべきものは（七こ万福の宝物）という除魔招福の呪文を唱えます。
演者は三人。牛役の一人が太鼓に手をつき背を丸め、牛使い役の二人が両脇に立っで、扇子で牛を洗う様を演じます。そして牛賛めの詞章にもなる、除魔招福を牛の左右の角に託じて唱えます。
演者は三人。苗草と苗代に入れる肥草の事で、榊の葉をそれに見立てています。まず「舞台中央の二人のうちの一人が大声で叫ぶと、控えていた一人が山から良い苗草を採って出て来ます。その様を三人でもどき風の掛け合いをしながら演じます。
苗草寄せとひと続きの演目で、二人がそれぞれ先の榊を受け取り、その葉をもぎ取っで回方に撒ぎ散らしながら、「金の小草に銀のにわとこ野辺に咲くは藤の葉・・・」と唱えます。
演者三・人。まず二人が扇予を開いて「やン苗草踏もうよ」と唱えながら、先に撒いた肥草（榊の葉）を田の中に踏み込む所作をすると、他の一人が小鼓を肩に担ぎ、申腰で「さン苗草踏もうよ」と応じます。後者を特に「六権兵衛ばやし」ともいいます。
演者二人。籾を入れた小桶を持ち、他の一人が牛王を持って舞台中央で種を蒔く様を演じます。貴重な種籾を一粒も無駄にすることなく、炒り米にして田の神に供え、残りを人も食べたであろう詞章を唱える演目です。
祝詞役が神前に向かって祝詞を奏上します。内容はこの田遊び祭を行うのほ、五穀成就、天長地久、国民豊饒を予言するためである、といったものです。
演者は二人。牛役が舞台中央の太鼓に両手を突いてうつ伏ぜになり、その周りを牛王を持った者が回りながら詞章を唱えます。田植えはユイを縮んで一挙に植えてしまうことが望ましいという内容です。
演者二人が水口に立って田を見回しながち、稲をはじめ芋がしら・・小豆・大豆・栗・稗・ささげとあげ、いずれも豊かに実ったという詞章を唱えます。
全員が舞台申央の太鼓を取り囲み、その上に据えた小桶の縁を小枝でたたきながら、種蒔きから刈り入れまでに害をなすものをあげて、これを追い払わねば豊作の年にならないと謡います。
全員が本殿に向かって座り、太鼓の拍子に合わせて「歌おろし」の詩章を唱えます。まず、一人が「福ある田によの 地ぐわらこを得てよの ものよき日にの さおりをしようとてよよ・・・」と謡い、小國大明神をはじめ神がみをあげ連ねて「礼々何候よ」と感謝します。
最後に「京から下るちょうふしくろの稲よの 稲なら三把に、米は八石 やらめでたし」と謡いおさめます。
いわば所作よりもむしろ、言霊の霊力による予祝讃美に中心があります。祭典を拝殿、神事を舞殿にて斎行し、神事後には参拝者に牛王神札の授与また投餅を行っています。